養育費は子どもが親に対して請求するもの
一般的に、親権者となって子どもをひきとる側(とくに妻の側)が、相手に対して養育費を要求するという事例はよくあることです。
しかし、離婚の際の子の養育費の支払いについては、直接定められた法律があるわけではありません。
民法上は親の扶養義務のほか、「監護について必要な事項が、協議でまとまらないときは家庭裁判所が定める」という規定があるくらいで、養育費を決める特別の基準があるというわけではありません。
養育費というのは、あくまで子どもの扶養のためのものです。
厳密にいえば、親権者(または監護者)が子どものかわりに扶養請求を行なうということです。
まちがっても、親権者となった親自身のために相手からもらえるお金ということではありません。
また、離婚して親権もないのだからといって、子どもの養育費の支払いを拒否したり、養育費の額を極端に少なくするということも認められません。
月額5万円程度が相場である
養育費の額は、支払う側の経済的なレベルを標準にして定められますが、一方の収入や生活だけで決められるわけではありません。
基本的には、養育する側でないほうの親が全面的に負担するものですが、養育する側にもそれなりに収入がある場合は、それも考慮に入れて決められます。
これまでの例だと、一般家庭では子ども一人に5万円前後といったところのようです。
ひんぱんに起こる「養育費の不払い」
養育費の支払いは、一般的には月払いであることが多く、期間も長期にわたるケースが多いため、支払いが滞るようになったり、払ってくれなくなったというトラブルも目立ちます。
養育費は債権ですから、もし不払いとなったら、一般の金銭債権の取り立てと同様の処置をとることが可能です。
しかし月々の額もそれほどの額でないだけに、手のこんだ手続きもちゅうちょしがちです。
かといって、不払いになればそれなりに経済的な痛手もこうむります。
そこで、養育費の不払いについては上手に催促をする事が必要です。
例えば公正証書を作成したり、内容証明郵便を出してみるというやり方もあります。
法的に養育費を確保する方法
家事審判法と家事審判規則には、審判や調停で決定した内容について次のような特別の規定が定められています。
養育費の不払いが続いていて内容証明郵便などで催促しても効果がない場合には、このように法的な処置を受けることもできます。
①履行勧告
家庭裁判所は、権利者の申し出のあった場合、審判や調停で定められた義務(金銭等の給付)がきちんとはたされているかどうかを調査し、はたされていない場合には義務の履行を勧告します。
これは裁判所が行なう勧告で、かなりの効力があります。
②履行命令
家庭裁判所は、審判や調停などで定められた金銭支払いなどの義務を怠っている者に対して、履行命令を下すこともできます。
正当な理由もなく履行命令にしたがわない場合には過料の支払いが命じられます。
③家庭裁判所への寄託
義務者が申し出れば、権利者にかわって裁判所は金銭の寄託を受けることができます。
寄託とは、物を預かって保管し、後で返還する契約をいいます。
家庭裁判所へ寄託させるのは、第三者である裁判所を仲介させることによって当事者同士の接触をさけるという配慮です。
④家庭裁判所の寄託命令・調停
場合によっては、寄託するための調停や寄託を命じる審判もありえます。
⑤強制執行
審判や調停調書は判決と同様の効力がありますので、養育費請求権について、支払義務者に強制執行ができます。
なお、養育費は、子供から父親に対する扶養料の支払いという形で請求することも可能です。
その場合は親権者が子供に代理して請求することになります。
事情によっては、養育費の額を増減できる
一度決められた養育費を変更することはそう簡単ではありませんが、それでもやむをえない事情がある場合には、養育費の増減を請求することが可能です。
たとえば増額の理由としては、
- 入学金など進学にともなう学費がある場合
- ケガや病気で入院した場合
- 受けとる側が病気や失職などで収入が低下した場合などがあげられ、
減額のケースとしては、
- 支払う側が病気や失職で収入が低下した場合
- 受けとる側の収入が大幅にアップした場合
のようなものがあげられます。
こうした養育費の増減についても、あらかじめ両者の間でとり決めておくといいでしょう。