公正証書による遺言の作り方

スポンサーリンク

遺言にもいろいろある

芦屋に住んでいるHは、関西系の大企業の重役を勤めてきており、かなりの資産家です。芦屋の土地 家屋のほか別荘も六甲に所有しており、株や預貯金も多額にのぼります。しかし、定年退職後、自ら の体力の衰えを感じており、体調も優れません。そんなとき、知人の資産家が死亡したとたんに、そ の遺族たちが遺産をめぐって骨肉の争いをしている様子を目の当たりにしました。自分の死後に、そ んなことかあってはならないと思い、Hは遺言状を書くことを決意しました。ただ、正式な遺言状を どうやって作成すればよいのか、Hは知りません。

この例で問題となっている遺言とは、表意者の死後の法律関係についてなされる最終の意思表明です 。遺言というと、武田信玄の「自分の死後3年間は、死を伏せておくように」との遺言や、毛利元就 の「兄弟3人、仲良く助け合うように」との遺言が有名ですが、ここでの遺言は、法律的な身分関係 ・財産関係に限定されます。民法では遺言の要式が厳格に定められています。遺言の効果は、表意者 本人が死亡した時に発生します。あいまいな点があっても、もはや本人に確認することはできません 。だれかに改ざんされてしまう危険性すらあります。そのため、要式や手続を厳格にしているのです 。民法上の遺言は、大きく分けて、①普通方式、②特別方式があります。このうち特別方式は、急病 や船舶事故など、緊急の場合の遺言の方式です。普通方式の遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言 、秘密証書遺言の3つがあります。

①自筆証書遺言

公証人が関与しない形式の遺言です。遺言者本人が遺言の全文・日付・氏名を自書し、これに押印し たものです。もっとも簡易な作成方法といえます。

②公正証書遺言

公証人の前で、遺言者が遺言の内容を話します。公証人はそれを聞いて筆記します。筆記が終わると 、公証人が遺言内容を、遺言者と証人2人に読み聞かせるか閲覧させるかして、まちがいがないこと を確認させます。まちがいがないことを確認したら、遺言者と証人がそこに署名し、押印します。最 後に、公証人が以上の方式に従って遺言を作成したことを記載して、署名・押印します。筆記自体は 、公証人がすることになっているのがポイントです。

③秘密証書遺言

遺言者が遺言を作成し、それに署名・押印します。次に、遺言者がこれを封書にして、封印します。 封印する印鑑は、中の証書に押印したものと同じものを使用します。そして、遺言者が公証役場に行 き、公証人と証人2名の前で、自分が作成したものにまちがいがないことと住所・氏名を述べます。 最後に、公証人が、証書が提出された日付と遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者と証人とともに、 これに署名・押印します。公正証書遺言と異なるところは、公証人が遺言の内容を筆記するのではな く、正式な遺言書であることを公証するだけであるという点です。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言は手続にかなりの手間がかかります。しかし、それだけに、他の方式にはないメリット もあります。まず、公正証書遺言以外の遺言の場合、遺言書の保管者は、遺言者の死亡を知ったとき に、すぐに家庭裁判所に遺言書を提出して、検認を受けなければなりません。これは、遺言書が偽造 ・変造などされていないことを、確認するための手続です。 しかし、公正証書遺言の場合には、そ の原本が公証役場に保存されているので、偽造・変造されても問題ありません。保存されている原本 が真正なものだからです。そのため、検認の手続は、受ける必要がないのです。次に、自筆証書遺言 や秘密証書遺言の場合には、紛失してしまえばそれまでです。しかし、公正証書遺言なら、原本が公 証役場に保存されているだけに、そのような心配がありません。

遺言を検索することができる

本ケースのHは定住していますが、遺言者によっては、遺言後に転居するケースもあるはずです。遺言者が生前から遺言内容を周辺に話していればよいのですが、何も話さないまま他界してしまうと、遺族にとっては遺言書の有無すらわかりません。以前に居住していた場所付近の公証役場で、作成しているかもしれません。そのような場合に備えて、公正証書遺言と秘密証書遺言については、遺言が公証役場で登録されることになりました。登録されるのは、平成元年以降の遺言です。コンピュータネットワークを利用しているので、全国どこの公証役場からでも、遺言の有無を照会できるわけです。この点でも、公正証書遺言は、優れた遺言の方法といえるでしょう。

障害のある人でも利用できる

原則として、遺言者は遺言内容を公証人の前で話してそれを筆記した公証人はその記載を読み聞かせることになっています。以前は、この方法によらなければ、公正証書遺言を作成することはできませんでした。しかし、それでは、言語や聴覚機能に障害のある人は、公正証書遺言を利用できず、問題とされていました。そこで法改正によって、手続の際には、自書や通訳人の通訳(手話)によって意思を伝達すればよいことになりました。

公正証書遺言作成の際に注意すること

以下の点に注意する必要があります。

①どこの公証人に嘱託するのか

遺言者白身が公証役場に行き、公正証書遺言を作成してもらう場合には、どこの公証役場の公証人に嘱託してもかまいません。ただ、遺言書の作成を思い立つときには、遺言者の体が自由にならないケースがよくあります。その場合には、自宅や病院まで公証人に出張してもらうことになります。この場合、公証人が所属する法務局の管内に管轄が限定されています。なお、出張してもらう場合は事前の打ち合せが必要ですし、出張分の費用もかかります。

②証人を用意しておく

公正証書遺言を作成するには、証人が2名立ち会わなければなりません。「証人」と聞くと、何か後で面倒なことが起きるような印象を受けますが、作成時にただ立ち会ってもらうだけです。証人は印鑑を持参します。この証人はだれでもなれるわけではなく、未成年者、相続人になるであろう人(推定相続人)、推定相続人の配偶者・直系血族はなることができません。利害関係がなく思慮分別のある成人に、遺言の作成について証明してもらうためです。

③必要な書類を用意しておく

身分関係や財産関係を証明するための書類を事前に用意しておきましょう。

・本人性を証明する
遺言者本人であることを証明するために、3か月以内に発行された「印鑑証明書」を用意します。

・遺言の内容を明らかにする
遺言の内容には相続人や受遺者、財産が登揚します。それらの存在を明らかにするための書類も、準備しておかなければなりません。具体的には、相続人や受遺者の「戸籍謄本」や「住民票」を用意します。また、相続財産については、「財産目録」を作成しておきましょう。不動産については、登記簿謄本を法務局(登記所)で交付してもらっておきます。

・手数料算定のための資料も用意する
公証人に支払う手数料は、相続される財産の価値によって決まります。そのため、不動産などの固定資産税の評価証明書(税務署に行ってとる)などを準備しておきます。

④遺言すべき内容を決定する

ここでの遺言とは、法律上の身分関係や財産関係に限られます。毛利元就のような「兄弟仲良くする ように」といった倫理的な訓示は、対象とされていません。具体的には、だれに何を相続させるか、 遺贈するか、どのようにして遺産を分割するのか、だれが遺言を実行するのか、といったことを内容 とします。その結論に至った感情や事情は、法律的にはあまり重要ではありません。ただ、遺言の解 釈上意味を持つこともあるので、簡潔に記載しておくのもよいでしょう。遺言できる内容は限定され ているので、不明な場合には、弁護士などの専門家と事前に相談しておくのもよいでしょう。

⑤「相続させる」という記載

遺産をだれかに譲る場合、そのだれかが相続人の中に含まれていれば、「相続させる」と表現します 。相続人以外の者であれば、「遺贈する」と表現します。なお、Hが「六甲の別荘を敷地・建物とも に、Rに相続させる」と表現した場合には、全相続人間で遺産分割協議を経ることなく、六甲の別荘 はそのままRのものとなります。遺産の分割方法を指定したことになるのです。

⑥遺留分

兄弟姉妹以外の各相続人には「遺留分」といって、最低限相続できる割合が法律で保障されています 。ただ、それを侵害する遺言がなされたとしても遺言自体は有効です。侵害された相続人は、「遺留 分減殺請求権」を行使して遺留分を取り戻すことができるからです。 もっとも、紛争の火種を残さ ないように、遺留分に配慮した遺言をしておいた方が無難でしょう。

⑦遺言執行者

遺言の中で、相続財産を管理し、遺言の執行を行う「遺言執行者」を指定できます。遺言の執行をス ムーズにするために、信頼できる人物や弁護士などの専門家を指定しておくと安心でしょう。