どんな公正証書であれば強制執行できるか

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どんなものが債務名義なのか

山田さんは事業を拡張するために、新店舗となる建物を購入しました。契約内容も正式に公正証書にしておきました。しかし、約束の期日が過ぎても、売主が登記の移転手続きや建物の引渡しをしてくれません。このままでは、事業計画が狂ってしまいます。「公正証書にしておくと、訴え出て判決をもらわなくても強制執行ができる」と聞いていた山田さんは、公正証書を手に、裁判所に向かいました。しかし、書記官から、「これでは強制執行はできません」と言われてしまいました。山田さんは首をかしげました。

ここで山田さんが希望している強制執行を実現するには、「債務名義」というものが必要です。債務名義とは、一定の給付請求権があることを証明する文書で、法律によって執行力が与えられたものをいいます。つまり、強制執行してもよい債権の存在を示している文書が、「債務名義」なのです。何が債務名義なのかは、「民事執行法」という法律に、以下のように規定されています。

①確定判決
②仮執行宣言つき判決
③抗告(裁判所の決定・裁判官の命令に対する上級の裁判所への不服申立法)によらなければ不服を申し立てることができない裁判
④仮執行宣言つき支払督促
⑤訴訟費用・執行費用等に関する裁判所書記官の処分
⑥執行証書
⑦確定した執行判決のある外国裁判所の判決
⑧確定した執行決定のある仲裁判断
⑨確定判決と同一の効力をもつもの

債務名義となる公正証書とは執行証書

債務名義となるもののうち、①の確定判決が典型的なものといえるでしょう。債権者が債務者を被告として債務の弁済を訴えたところ、債務者に支払いを命ずる判決が下されて、それが確定すれば、債務名義となるわけです。判決が確定するとは、不服を申し立てて上訴することができなくなった状態をいいます。公正証書について示しているのは⑥です。公正証書が法律によって債務名義として認められているのは、執行力のある公正証書である「執行証書」なのです。単に公正証書という体制を整えているだけではなく、一定の金銭その他の代替物または有価証券の給付を目的とする請求であり、強制執行されてもよいという債務者の意思を示している執行認諾約款がつけられた公正証書でなければならないのです。ですから、いくら公正証書にされているからといって、不動産の引渡しや登記の移転を目的として強制執行することはできないのです。山田さんは、建物の引渡し・所有権移転登記を求めて訴訟を提起して、それを認める判決が確定してから強制執行ができるようになるのです。