与信契約を公正証書にすることはできるのか

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与信契約とは何か

山田さんは健康食品や自然化粧品を製造・販売して、大阪を拠点に順調に売り上げを伸ばしていましたが、新興のエステ企業から、与信契約で人気の自然化粧品の卸販売をして欲しいとの申し入れを受けました。

与信契約とは、一定の取引(貸付)限度額を決めておいて、その範囲内で何回も金銭貸付や売買などの取引をする契約をいいます。つまり、卸売代金の限度額を1000万円として、その限度内で、山田さんの自然化粧品を、エステ企業に対して反復継続して供給していくというわけです。売主である山田さんが買主であるエステ企業に信用を与えるということです。この契約ですと、1月~3月期の代金総額が500万円である場合もあれば、4~6月期の代金総額が800万円である場合もあります。つまり、売主(債権者)と買主(債務者)の間の債権が一定していないのです。山田さんとしても得意先が増えることになり、願ってもない話です。ただ、信用調査をしたところ、実績の薄いエステ企業の信用がいまひとつなので、公正証書を作成しておきたいと思うようになりました。公正証書を作成し、執行認諾約款をつけることができれば、いざというときでも債権を回収することができます。

債権額が決まらないので債務名義にはならない

与信契約は、ビジネスの社会においては、非常に便利な契約といえます。同じ当事者間でいつも商品を売買している場合には、いちいち現金をやりとりしたり、手形・小切手を切ったりするのでは、煩わしいばかりです。また、金融にしても、継続して融資がなされている場合には、①契約→融資・担保の設定→返済→②契約→融資・担保の設定→返済→③契約→・・・といったことを繰り返すことは非効率的です。実務的な感覚としては、この与信契約についても執行認諾約款つき公正証書を作成しておくことは、とても合理的なのです。 しかし、裁判例では、与信契約について、公正証書は債務名義とはならないと判断されています。一定の枠内で債権債務の関係があるとはいっても、具体的に債権額がいくらになるかは定まっていないからです。経済的には有効な証書になるので、実務界では実用化の要望が高いのですが、実際には執行認諾約款つき公正証書は認められないという建前になっています。もっとも、執行認諾約款がついていない公正証書、つまり債務名義とはならない公正証書であれば公証人は作成します。執行認諾約款がなくても証明力は非常に高いので、作成しておくといざというときに有力な証拠になるでしょう。