災害によって生死が不明な場合には特別失踪
戸籍の死亡の記載は死亡届によって行われます。死亡届には、原則として死亡診断書か死体検案書を添付し、死後7日以内に提出します。ところが、自然災害や戦争で、死体が発見できないため、死亡診断書や死体検案書の作成が不可能な場合もあります。
この場合は、前述した特別失踪があります。地震などの場合もこれに該当する事案は多く、失踪宣告があれば裁判所の失踪宣告を待って、相続が開始されます。しかし、災害での死亡が確実と思われる場合は、 戸籍法上で、2つの処理方法が決められています。
① 認定死亡
水難、火災、その他の自然災害や戦争による騒乱などによる死亡は、官公署の報告により戸籍に死亡の記載がなされます。
② 死亡証明書の添付による死亡届
届書に死亡診断書などを得られない理由を記載した「死亡の事実を託すべき書面」で代える事ができます。この書面にはとくに制限がなく、官公署の証明書、状況目撃者の陳述書なども入ります。ただし、これらの証明書による死亡認定の場合は、市町村長は戸籍事務を監督する地方法務局長の指示により、処理する必要があります
家庭裁判所は通常の場合、戸籍の記載により死亡を認めて、相続に関する手続きを開始します。しかし、それはあくまで戸籍上の死亡の記載による手続きの開始ですから、本人が生存していれば、相続手続は無効になります。
戸籍上記載された死亡時刻は絶対的なものではない
死亡届には、死亡診断書か死体検案書の添付が原則です。これには死亡時分も記載されています。そこで戸籍の死亡の記載には、この死亡届にもとづき、場所、時間が○時○分まで記載されます。相続手続きは、死亡時刻の時点で開始されます。しかし、不正確な時分が戸籍に記載された場合や、複数の相続人が同時死亡の推定を受ける場合はどうなるのでしょうか。この死亡時刻は相続権の有無にも影響があり、重要です。
死亡時刻は、戸籍の記載によって定まるといえますが、それが相続に関係した争いになれば、訴訟で争うことができます。戸籍の記載は、死亡診断書や死亡検案書、その他の証明書の記載による届出の内容をそのまま転記したものであり、訴訟の判決のような確定力がないからです。
たとえば、同時死亡についていえば、一般には、医師が死亡時を確認している死亡診断書は信用性が高いので、戸籍記載時刻に死亡したとの推定が働き、同時死亡の推定は受けません(たとえば、同一事故で2人の相続人が死亡した場合で、相続人Aは午後2時30分に死亡したと死亡診断書に記載され、相続人Bは午後2時32分に死亡したと記載されているような場合)。これに対し、検死医による推定死亡時刻を記載した死体検案書の場合には、死体検案書記載の死亡時効(たとえばAが午後2時30分、Bが午後2時32分に死亡したとの記載)より同時死亡の推定が優先するといわれています。