事故の態様を明らかにするために刑事裁判記録が利用される
交通事故にあった被害者のところへ示談交渉に来るのは、ほとんどの場合、任意保険会社の代理人です。そして任意保険会社側では、追突事故のように被害者が100%無過失でないかぎり、必ずといってよいほど過失相殺の主張をしてきます。被害者側で主張する過失割合と保険会社の出張してくる過失割合が大幅に異なり、歩み寄る余地がない場合には、裁判で決めてもらうしかありません。では、裁判の場においては、過失相殺を、どのようにして、どの程度斟酌するかは、裁判官の自由裁量に任されており、また条文の規定も「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」(民法722条2項)となっており、被害者の過失を斟酌しないのも自由とされています。ですから、損害賠償請求の裁判で過失相殺を争う場合には、過失の割合を明確にするための証拠が大きな意味をもってきます。一般に、損害賠償訴訟で過失割合をめぐる判断が争点になっている場合に、必ず利用されているのが、交通事故の刑事裁判の記録です。
裁判で使われている刑事裁判記録とは何か
交通事故が発生すると、警察官は事故現場に駆けつけ、当事者の立会いの下で(救急車で病院へ運ばれた場合は、後日、病院で)、事故現場の見取図、実況見分調書、警察官が事情を聞いて作成する警察官調書を作成し、内容の間違いないことの確認をとって、当事者に署名捺印(または拇印)をさせます。さらに警察官の作成した調書について当事者に食い違いなどがあれば、検察官が調べを行い、検察官調書を作成します。加害者の刑事責任が略式手続きで終了する場合には、以上の書類が刑事裁判記録となります。交通事故の損害賠償請求は、事故直後に行われることはまずありません。相当、時間が経過した後に、示談交渉や損害賠償請求訴訟が行われるのが普通です。そのために、事故を目撃した証人がいたとしても、記憶が曖昧となってしまいます。しかし、現場見取図や実況見分調書は、事故直後に作成されたものであり、これを見れば、事故発生時の状況や事故の態様、加害者の注意の程度などを判断することができます。その上、これらの調書には、加害者自身も署名捺印しているので、証拠としての価値が高いのです。