強度の精神病であり回復の可能性がない場合に認められる
高齢化社会と盛んに言われるようになるにつれ、「ぼけ」とか「アルツハイマー病」などの老人性痴 呆症が増加してきています。このような病気にかかった患者をかかえた家族にとっては、家庭崩壊の 危険すら負わされかねません。こういう事件では、妻が病気になり夫から請求するケースが多く、妻 からの請求が少ないようです。これは妻が夫に比べ、忍耐強く、最後まで夫をみとることを受け入れ る優しさのせいかもしれません。老人性痴呆症のような病気を原因とする離婚請求が、民法770条1項4 号に定める精神病離婚に該当するかどうかも問題のあるところです。ただ、精神病離婚の場合には、 「強度」の精神病であるという厳しい条件が必要なため、これに該当しない場合も多く、これをクリ アーするために同条1項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」により、請求するケースもあります 。もちろん、この場合には、夫婦生活がすでに破綻していることが、離婚が認められる要件となりま す。たとえば、老夫婦二人の生活の場合には、他の配偶者に過度の負担や犠牲を強いる結果をも招き やすく、その結果として、夫婦共同生活が破綻しているとみられるケースが多いでしょう。
老人性痴呆症について判例はどうみているか
参考になる判例がありますので、紹介しましょう。夫が42歳、妻が59歳、結婚生活20年、子供はあり ません。結婚後、11年目から妻が就寝中に失禁をしたり、自宅がわからなくなったりしました。その2 年後、病院では、アルツハイマー病とパーキンソン病と診断され、その後さらに症状はひどくなり、 寝たきりの上、夫であるということもわからなくなり、言葉も不明瞭となり日常会話もできなくなり ました。夫は家事全般のほか、妻の看護をしていましたが、さらに勤務先を退職して、自分の実家で ある長野へ帰って、母とともに介護をしていました。民生委員の尽力のおかげで、妻は24時間完全介 護の施設のある特別養護老人ホームに入所しました。夫は妻の入所後も、1ないし2週間に1度の割合で 見舞いを続け、食事や爪を切るなどの世話をしてきました。その頃、親族や知人の勧めもあって再婚 を考えるようになり、離婚を決意するに至ったのです。裁判所は、妻の病気が精神病に該当するかど うかは疑問が残るとしながらも、長期間にわたり夫婦間の協力義務をまったく果たせないでいること などによって、婚姻関係は破綻していることは明らかであること、さらに夫が離婚後も若干の経済的 援助および面会を考えており、全額公費負担の老人ホームでの介護が得られることを考慮して、離婚 を認めました。