精神病の妻との離婚の可否は病状による

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強度の精神病であり回復の可能性がない場合に認められる

現在のように、ますます高度化する文明社会の下では、精神的な病に侵される人も多くなってきてい ます。夫婦というのは、精神的な結合と肉体的な結合をバックボーンとして成り立っているものです 。それが精神病にかかったために、婚姻の本質的な部分である精神的な結合を欠くにいたり、夫婦生 活が破綻した場合にまで、夫婦の一方を破綻した婚姻生活に一生縛りつけておくことは、いかにも酷 だと言えます。とはいうものの、教会での結婚式での神父の言葉を借りるまでもなく、夫婦は健やか なる時も病める時も、お互いに助け合うべきものでもあります。精神病にかかったからといってすぐ に離婚を認めるというのは、人間感情にそぐわないともいえます。そのため、精神病を離婚原因とし て法律上認めるかどうかは、各国でも議論の的になっています。戦後に作られた現在の民法では、強 度の精神病にかかって回復の見込みがないとき、という条件の下に、離婚原因とすることが定められ ました。では、ここでいう「強度」とは、どんなものを言うのでしょうか。夫婦として結婚生活の本 質的な義務を果たせないはどの精神障害であることが必要で、分裂病、早期性痴呆、躁欝病、偏執病 、初老期精神病などの高度な精神病などにかかった場合を言います。また、「回復の見込みがない」 とは、不治を意味しますが、回復の可能性の有無は、厳密な医学的判断によるのではなくて、精神科 医の鑑定をもとに、裁判所が判断することになっています。

精神病にかかった者のアフターケアが十分でないと認められない

昭和33年に出された最高裁判所の判例では、妻が不治の精神病にかかった一事のみをもって離婚訴訟 を理由ありとすべきではなく、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎ りの具体的な方途を講じ、ある程度、前途に、その方途の見込みのついた上でなければ離婚請求は許 されないとの判断を示しています。いずれにせよ、家事や育児ができないということだけでは、離婚 原因となるかどうかは一概に判断できません。精神病の再発の可能性、回復の見込みがあるかどうか 、今後の療養・生活の見込みなど、もろもろの事情が考慮された上で、離婚を認めるべきか否かが判 断されることになります。妻が統合失調症による入退院を繰り返し、現在単身生活をし通院しながら 薬物療法精神療法を受けているが、医師、ケースワーカー、家族などの庇護の下においては社会生活 を送ることができる中度の欠陥治癒の状態の場合(東京地裁・昭和59年2月24日判決)、また妻が統合 失調症で入院中であり、完全に治っておらず、現実の夫や娘にはあまり関心がなく、かすかに人格の 崩壊がみられるが、意思能力を欠くほどではない(東京高裁・昭和57年8月31日判決)として、強度の 精神病に当たらないとしています。