どんな離婚の方法でも子どもの親権者を決めることは不可欠
山田さん夫婦はついに離婚することになりました。二人の合意ですから協議離婚をするのが順当です。幸い両者とも冷静で離婚条件についての穏やかな結 論が出ました。山田さん夫婦には大した財産はないのですが、夫の山田氏名義の一戸建ての家があり、少しの貯金もありました。そこで、慰謝料兼財産分与とし て、山田氏が現金を工面して奥さんに支払いをすることにし、まずまずの金額も決めることができました。ところが一人息子の太郎君の親権者をどちらにするの かの問題についてだけは残念ながら協議が成立しませんでした。双方とも子どもがかわいくて手放せない心境だったからなのです。両方の両親もそれぞれ健在 で、つまり太郎君のお爺さんお婆さんも必死で自分たちの側に置いて育てたいと言うのです。両方とも裕福で、太郎君を育てる余裕があるだけに話し合いが決ま らないのです。かわいい太郎君を自分たちの手で育てたいということは、冷静とか穏やかとかの問題ではないのでした。さて困りました。協議離婚の届には親権 者となる者を記載しなければならず、したがってその点の協議ができないと離婚届が出せず離婚することができません。どうすればよいでしょうか。
親権者が決まらない場合には調停または審判を申し立てる
離婚の協議ができて親権者の協議ができない場合には、その点について家庭裁判所の審判を求めるか、または調停を申し立てる方法があります。調停を申 し立てても、それが不成立であれば、手続きは移行して審判となります。なお、審判については調停前置主義はありませんから、いきなり審判申立てでもかまい ません。もっともこの審判は協議で離婚することは決まったが、親権についての協議だけができない場合のことです。もし一方が、自分が親権者にならないのは 不本意だから離婚にも応じないというのであれば、審判で定めることはできません。離婚そのものは調停・訴訟事項であって審判による事項ではないからです。 この場合は、家庭裁判所への調停・訴訟によることになります。ただし、家庭裁判所も(本来は審判事項でない離婚についても)「調停に代わる審判」としての 審判を下すことができるのですが、これは当事者から2週間以内に異議申立てがあれば効力はなくなり、訴訟をするほかはなくなります。養育費や監護者(親権 者ではない方が事実上育てる場合)の指定または監護に関する処分についても同様で、審判または調停で定めることができるのですが、これは離婚届への記載が 必要な事項ではありません。したがって、後日の解決に譲ることにして取りあえず協議離婚の届けを出すことはできます(ただし、いったん離婚が成立すると解 決が困難になりがちです)。
離婚調停で子どもを預ける約束なのに守らない
このような事件がありました。6歳と4歳の子どもを連れて別居中の妻が離婚調停を申し立て夫が冬休みの間だけ二児を預かりたいというので、調停の円 満な進行に配慮した調停委員の勧めもあり、子どもを預けたところ、約束に反し子どもを返しません。調停委員の説得にも応じず、二児の住民票まで勝手に夫の 方に移しました。妻はやむなく人身保護法の請求をし、地裁では妻の請求を認めたのですが、最高裁まで争いとなり、最高裁では、夫の拘束に顕著な違法性があ ると判断して妻の請求を支持しました(平成6年7月8日判決)。