相手が行方不明の場合は調停は不要

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調停の申立てが物理的に不可能な場合の手続き

事例で解説しましょう。花子さんの亭主はある日ふらりと蒸発してしまい、長期間が経過しました。腹が立つやら悲しいやら。それでも花子さんは元の住所に頑張って待ちました。しかし、亭主は現れないのです。いつまでも不自然な状態のまま暮らしていくことはできません。そこで、花子さんはとうとう離婚することに決心しました。悪意の遺棄という離婚理由がありますから、離婚が成り立つことに疑いはありません。でも蒸発した人間を相手に訴訟を提起するには、どうすればいいのかがわかりません。法律では離婚訴訟を提起するには、まず家庭裁判所への調停申立てが必要だとされています(調停前置主義)。しかし、行方不明の人間が調停に出てきて、調停に合意するわけはありません。第一、裁判所からの呼び出しも不可能です。

調停前置主義にも例外的措置が設けられている

家庭裁判所への離婚の訴訟を提起しても調停申立てを経ていない場合は、裁判所は事件を家庭裁判所の調停に付さなければならないとされているのですが、このように調停が適当でない場合は例外となります。すなわち、その旨を付記して、調停抜きで直接に訴訟を提起すればよいのです。管轄裁判所については複雑な規定がありますが、この場合は花子さんの住所地の家庭裁判所でいいことになります。訴訟なら被告が不出頭でも裁判所の審理により判決が出されます(調停は相手方不出頭なら不成立となります)。ただし、訴訟も相手(被告)に訴状が送達されなければなりません。夫の以前の住所は花子さんの住所と同じですが、それは現在の住所ではありません。住民票はそのままでしょうから、そこを住所とみるとしても、花子さんは自分の出した訴状を夫に代わって受領するわけにはいきません。そこで訴状は送達不能となり、訴訟の進行は不可能となります。つまり調停の呼出しができないのと同じことが生じます。このような場合には、公示送達という手続きがとられます。裁判所門前の掲示板に書類が貼り出してある、アレです。この手続きにより一定期間が経過すれば送達がされたことになり、訴訟の審理が行われ、判決が出されます。ただし、公示送達の手続きをするには裁判所の審理があり、この段階で被告の住所が判明すれば調停に付されることになります。3年以上の生死不明の場合に離婚しようと思えば、その前に、捜索願を出したり、心当たりを捜したり、最後に消息のあった所を管轄する警察に照会するなど、手を尽くして捜すことが肝心です。それでも消息がわからないという場合に「生死不明」といえるでしょう。裁判例では、放浪癖があり、賭け事にこる夫が働いてくるといって家を出たまま消息を絶ち、7年を経過したもの(仙台地裁大河原支部・昭和38年8月29日判決)があります。その他、出漁中に暴風雨で行方不明になり 3年以上消息不明の場合などがあります。

妻が行方不明で 10年以上になるが離婚できるか

配偶者が3年以上生死不明の場合には、裁判によって離婚できます。また、これとは別に、配偶者の生死が7年間(船の沈没や飛行機墜落事故などの場合には1年間)わからなかった場合には、相手の配偶者はもちろん利害関係人は、家庭裁判所に申し立てて失踪宣告を出してもらえます。失踪宣告が出ると、失踪者は法律上死亡したものとして扱われます。この場合には、離婚の代わりに離婚が開始し、残された配偶者は再婚もできます。問題は、再婚後に失踪配偶者が現れた場合です。その場合には重婚となり、再婚が取り消される危険があります。