家を出て帰ってこなければ夫婦の同居義務違反に該当する
何度も同じことを言うようですが、一度結婚して夫婦になると、同居・協力・扶助の義務をお互いに負うことになります。結婚した夫婦が同居して夫婦共同生活を送るということは、結婚生活のひとつの基本要素であるからです。この民法752条に規定する同居義務は、強行規定であるとされていますので、たとえば石川達三の小説「結婚の条件」に書かれているような、結婚したあとに永久に別居生活を続けるというような契約は許されません。夫が実家に帰った妻に対して、何度も帰ってくれるように頼んだのに、それを無視して帰ってこないのであれば、夫婦間の同居義務違反となりますが、たまたま実家に帰って数日間帰ってこないことを幸いに離婚請求の裁判を起こしても、同居義務違反が認められるわけではありません。
同居義務違反は法定離婚原因の悪意の遺棄に当たる
正当な理由もないのに、夫婦の一方が同居義務を履行しない場合には、法定離婚原因の一つである「 悪意の遺棄」となります。ここでいう悪意は、遺棄すれば夫婦共同生活がやっていけなくなるという ことを知っているだけではなく、そうなってもかまわないという不誠実な心理、態度をいいます。も ちろん、出稼ぎであるとか、単身赴任、海外出張などのように、同居しないことについて正当な理由 がある場合には、同居しないからといって、同居義務違反や悪意の遺棄になるものではありません。 また、妻が家を出て実家に戻るに至った理由が、夫の同居に耐えがたい暴力から逃れるためであった り、舅や姑の我慢できないほどの露骨な嫌がらせから逃れるためであったり、あるいは夫が不貞を繰 り返すため、夫に反省を求めるための別居であったなどという場合には、別居について正当の理由が あると言えますから、法定離婚原因の悪意の遺棄には該当せず、離婚は認められません。ここでいう 遺棄は、相手を置き去りにして家を出たり、あるいは相手方を家から追い出すことは当然含まれます が、相手方に対して家を出ざるをえないように仕向け、いったん家を出た相手が家に帰ることを拒む ことも含まれます。また、遺棄といえるためには、遺棄の期間が相当続くことが必要という考えもあ りますが、二か月で遺棄と認めた判例もあります。悪意の遺棄には該当しない場合でも、「婚姻を継 続しがたい重大な事由」として離婚を認めたケースもあります。仕事のためとはいえあまりに多い出 張、外泊、小遣いていどの入金など家族を顧みない夫の行動は、悪意の遺棄にはやや足りないが、「 婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たるとして離婚を認めた例(大阪地裁・昭和43年6月27日判決) 、病気療養で実家に戻ったまま戻らない妻について悪意の遺棄は認めなかったが、多くのわがままな 言動をとらえ、「婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚を認めた例、などがあります(横浜地 裁・昭和50年9月11日判決)。