借家契約とは
俗に「借家契約」などと呼ばれていますが、法律的には「賃貸借契約」の一種です。「建物賃貸借」ともいわれます。もっとも、建物賃貸借といっても、種類は様々です。一軒家を賃貸する場合もあれば、集合住宅の一室を賃貸する場合もあります。ビルをフロア単位で賃貸することもあれば、ビルごと丸々賃貸する場合もあります。いずれにしても、借家契約とは、貸主が借主に建物を使用させ、その対価として借主が「賃料」を支払うことを内容とする契約です。建物賃貸借の場合、「借地借家法」という特別な法律が適用されて、一般的には、不動産を所有している家主よりも、それを借りている者の方が経済的には弱い立場にあるし、借家は日常生活や仕事の大切な基盤となっているため、保護の必要性が高いからです。借家契約について公正証書を作成する場合には、この点について十分に理解しておくことが必要になります。
作成にあたって注意すること
借家契約を締結するにあたっては、借地借家法の規定や借家関係に特有の慣習などについて注意してください。他の賃貸借契約では見られない特徴としては、次のものがあります。
①期間に関する定め
借地借家法では、借家人が手厚く保護されていますが、その最たるものが期間についてです。生活や仕事の基盤となっている以上、長期間にわたって保護する必要があるからです。まず、最初の契約期間ですが、民法上は原則として、20年以下とされています。では、1年未満の契約を結ぶこともできるかというと、借地借家法によって、1年未満という短い期間の設定は、期間の定めのない契約とみなされることになっています。
②契約の更新や解約
次に、契約期間が満了したり、期間の定めがない場合に家主が契約を解約したい場合ですが、これも、借地借家法によって「正当な理由」がない場合には、契約の更新を拒絶したり、解約をすることは認められません。この「正当な理由」があるかないかについては、裁判例を見ると、かなり家主側に厳し判断が下されています。家主とその家族が建物を利用する必要性が高い場合や、それなりの立退料を借家人に対して支払う場合など、特別な事情がない限り、なかなか認めてもらえません。一度建物を貸したら、期間が満了してもよほどのことがない限り簡単には明け渡されないと考えておくべきでしょう。
③敷金や保証金
借家契約では、他の賃貸借契約では見られない金銭の受け渡しがあります。敷金、保証金、建設協力金などです。これらについては、必ず契約内容に盛り込み、公正証書にも記載しておくことが大切です。
④管理規約
最近では、集合住宅でも生活環境を重視する居住者が増えています。そのため、借主相互のために管理規約・規則などが設けられるケースが増えています。管理規約は、賃貸借契約とは別に設けられますが、管理規約を遵守することについては、賃貸借契約に規定するとよいでしょう。
特殊な建物賃貸借契約
借家人にとって建物は生活の本拠となり、また、仕事の基盤となるため、借地借家法という特別法によって手厚く保護されています。しかし、その一方で、家主にとっては、一度物件を賃貸すると相当長期にわたって、するを自由に処分することができなくなります。家主側からは、あまりに酷な契約内容となってしまうという不満が出てきたのも無理がありません。一方、借りる側からしても、必ずしも長期にわたって賃借する必要があるとは限りません。このような事情から、家主・借家人の双方にとって、合理的かつ経済的に借家を利用できる制度を創設する必要性が生じました。そこで、近年、借地借家法が改正されて、一定期間が満了すれば、更新拒絶の「正当事由」を問うことなく、それで賃貸借契約が終了するという形態の建物賃貸借(定期建物賃貸借)が認められるようになりました。当初の改正では、「賃貸人の不在期間の建物賃貸借」という制度と、「取り壊し予定建物の賃貸借」という制度が設けられました。ただ、その後にあった改正によって、より幅の広い「定期建物賃貸借」という制度がもうけられたため、「賃貸人の不在期間の建物賃貸借」の方は、それに吸収されるかたちになりました。これらの制度については、公正証書との関係も含めて、その趣旨を十分に理解したうえで、上手に活用するとよいでしょう。
①定期建物賃貸借
契約当初から、期間を定めて賃貸借契約を定めることができるようになりました。期間が満了すれば、更新拒絶の正当事由のあるなしに関係なく、契約が終了します。家主が所有物件を一定期間だけ賃貸し、有効に活用したい場合に利用するとよいでしょう。ただ、いくつかの条件があります。契約は必ず、公正証書によるなど書面にしておかなければなりません。また、賃貸人はあらかじめ賃借人に対し、契約の更新がないこと、期間が満了すれば賃貸借が終了することについて、書面を交付した上で説明しなければなりません。さらに、期間満了の1年前から6か月前の間に、期間満了によって賃貸借契約が終了することを通知しなければなりません。
②取り壊し予定建物の賃貸借
所有する建物が一定期間経過後に取り壊さなければならない運命にある場合、以前の借地借家法では、簡単に賃貸することはできませんでした。しかし、建物が取り壊されるまでの間でも賃貸できれば、当事者双方にとって便利であり経済的です。そこで、法令または契約により一定期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合には、それまでの期間に限って賃貸借契約が締結できることになりました。この特約は、取り壊すべき事由を記載した書面によって行わなければなりません。高い証明力をもたせたい書面については、公正証書を作成しておくと確実です。
公正証書作成のために用意しておくもの
借家契約を結ぶ場合には、契約の更新などの点で注意を払わなければなりません。また、特殊な建物賃貸借契約を結ぶ場合には、契約締結自体が書面で行われなければなりません。公正証書の作成を嘱託する際には、基本的には、公正証書一般について説明したことがあてはまります。ですから、本人であることを証明する書類や代理による場合の委任状の作成などは変わりありません。なお、賃貸借契約では、目的となる物件を明らかにしておく必要があります。そのため、あらかじめ法務局(登記所)で、賃貸の目的となる借家の登記簿謄本の交付を受けておくべきでしょう。