執行文の取り方を知っておこう

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なぜ執行文が必要になるのか

公正証書に、債務者が債務を履行しない場合には強制執行をしてもよいという執行認諾約款がつけられていると、それは「執行証書」と呼ばれます。では、いざ債務者が債務を履行しないのであれば、すぐに、執行証書を根拠に強制執行に入ることができるかといえば、そうではありません。債権債務の関係があることと、それを強制執行することは別の段階の問題です。強制執行は債務者の財産に対して、意思に関係なく直接に強制力を加える手続です。そのため、執行証書の内容どおりに、そのまま強制執行に入ってよいのかを、公証人が判断すべきこととされています。つまり、執行証書に、それが執行力を持つことを公に証明する文言を、公証人が付記するわけです。この文言を「執行文」といい、執行証書に執行文をつける行為を「執行文付与」といいます。債務の中には、その発生が一定の期限や条件にかかっていたりすることもあります。このような場合には、債権者としては、公証人に対して期限の到来や条件の成就を明らかにして、そのうえで執行文を付与してもらいます。この場合の執行文を「条件成就執行文」といいます。 また、債権が第三者に譲渡されたり、債権者または債務者が死亡して相続されるケースもあります。その場合には、執行証書に記載されている債権者・債務者とは別の人物が、強制執行の手続に関与していくことになります。そこで、債権または債務が承継されたことを、公証人に対して明らかにして、執行文の付与をしてもらいます。この場合の執行文を「承継執行文」といいます。このように、執行証書が作成されたときと状況が異なっているケースでは、特に執行文付与の手続は重要性を帯びるのです。ここではひとまず、条件成就執行文を例にして解説します。

条件成就執行文とは何か

県立高校で数学の教諭をしている山田さんは、旧友鈴木さんから借金を申し込まれました。旧友の頼みでもあり何とかしてあげたいのですが、山田さん自身がお見合いを控えていました。もし、結婚ということになれば、何かと物入りになります。そこで、山田さんが結婚したらお金を返してもらうという条件でお金を貸すことにして、そのことも含めてきちんと執行証書を作成しておきました。お見合いの後、まもなく山田さんは結婚しました。しかし、結婚の事実を知らせても、鈴木さんは返済をする様子がありません。山田さんは強制執行に踏み切ることにしました。

この例のように、一定の条件が成就すれば債務者が債務を弁済しなければならないケースでは、条件が成就していることを公に証明する執行文の付与が必要になります。この執行文を条件成就執行文といいます。ただ、どのような場合に条件成就執行文が必要になるのかは、法律上専門的なところもあり難しい問題です。ここでは、ありがちないくつかのパターンについて、述べておくことにします。

①期限

通常の債務には、「平成○年○月○日を期限として返済する」といったように、弁済の期限がつけられています。このような確定した期限は、その到来がだれの目にも明らかなので、条件成就執行文は不用です。ただ、「○○が死亡したときに」といった不確定な期限の場合には、その到来を客観的に証明しなければならないので、条件成就執行文は必要です。

②条件

条件が付けられている場合には、原則として、条件成就執行文が必要になります。条件の到来が、債務者や執行官などに明らかではないからです。条件と①で挙げた不確定期限は区別が難しいといえます。とりあえず、いつ到来するかはわからないが確実に到来するのが不確定期限、到来するかどうかがわからないのが条件、と理解しておいてください。ここで挙げている山田さんのケースでは、山田さんの結婚は到来するかどうかわからない事実です。そのため、条件成就執行文が必要になります。

③期限の利益喪失約款

売買代金の分割払いや借金の分割払いなどでは、「1回だけでも支払いを怠れば残金全額の支払い義務が発生する」という内容の条項(約款)がつけられていることが多いのです。これを「期限の利益喪失約款」といいます。支払いを怠るということは、確かに条件かもしれません。しかし、支払うことは本来債務者の義務であるので、トラブルとなった場合には、逆に、支払いをしたことを債務者が証明すべきです。結論としては、単純な執行文でかまいません。

④同時履行が果たされているか

売買契約などでは、原則として、当事者それぞれの債務は同時に履行すべき関係にあります。例えば、動産の売買では、買主の代金支払いと引き換えに、売主の目的物の引渡しが行われることになります。もっとも、このようなケースで、買主が代金を支払わないからといって、売主の引渡しが執行文付与のための条件とはなりません。もし、それを要求すると、売主が先に目的物を引き渡すことになって、不公平なことになってしまうからです。

条件成就執行文付与の手続の進め方

条件つきの債務が履行されずに強制執行に入る場合には、以下のような手続になります。

①条件の成就を証明する

債権者は執行文の付与を依頼する公証人に対して、条件が成就したことを証明しなければなりません。証人を連れて行って、証言してもらうという証明方法はとれません。なお、使用する文書は、公文書でも私文書でもかまいません。公証人が、条件成就の事実を確認できる程度のものであればよいのです。

②執行文が付与されない場合には

もし、文書による証明ができず、公証人が執行文を付与してくれない場合には、裁判所に対して訴えを提起して、執行文を付与してもらうことになります。この訴訟の中で、債権者は文書以外の証拠(証人など)を使って、条件成就の事実を証明します。この訴えを「執行文付与の訴え」といいます。執行文付与の訴えを提起すべき裁判所は、債務者の住所地を管轄する裁判所になります。主張が認められると、執行文付与を命じる判決が下されます。債権者は判決の正本と確定証明書を提出して、あらためて公証人から執行文の付与を受けます。

③送達する

強制執行のためには、執行文の付与を受けた債務名義(ここでは執行証書)を債務者に対して送達しますが、条件成就執行文の場合には、証明のために提出された文書の謄本も送達することになっています。ですから、手続を速やかに進めるためにも、謄本も準備して持参するとよいでしょう。