強制執行を活用する

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債務者の財産を差し押さえてもらうことができる

山田さんは、鈴木さんに対して卸売りした商品の売掛金債権を、公正証書にしておきました。しかも、その公正証書には、執行認諾約款がつけられていました。鈴木さんは「もう少し、待って欲しい」と言って逃げるばかりです。鈴木さんには自己所有の土地と建物があるので、山田さんはこれに対して強制執行をかける決意を固めました。早速、裁判所に強制執行の申立てをしたところ、びっくりした鈴木さんは慌てて山田さんの銀行口座に金銭を振り込んできました。

この例でもあるように、貸した金や売掛金を、債務者がなかなか支払ってくれないケースはよくあります。債権者としては感情的になりやすい場面ですが、債務者の家のカギをこじ開けて、中にある現金などの財産を勝手に持ち出すわけにも行きません。「弁済(返済)しないなら、家に火をつけるぞ」などと言えば、それこそ恐喝罪で逮捕されてしまいます。このような行為は自力救済(裁判所の手続きを経ないで権利を行使すること)といって、原則として、禁止されているのです。自力救済を認めると平穏な社会秩序が崩壊し、法治国家が成り立たなくなってしまうからです。

自力救済が禁止されている代わりに、債権者が裁判所に対して申立てをすれば、執行機関が、債権回収のために強制的な手続をしてくれるのです。これを「強制執行」といいます。通常は、申立てにより債務者の財産が差し押さえられ、それから競売にかけられます。競売によって財産が現金に換えられると、債権者は債権額に見合った金額の配当を受けます。もし、余りが出れば、その分は債務者に戻されます。

強制執行の手続ですが、公正証書を裁判所に提出すれば、それだけですぐに執行機関が動いてくれるわけではありません。強制執行は相手方の財産に対して直接作用を及ぼしますし、債務者の他にも利害関係のある人がいる可能性があります。そのため、「民事執行法」という法律にいくつかの手続が定められているのです。冒頭の例で示したように、それまでのらりくらりと逃げ回っていた債務者でも、債権者が裁判所に対して強制執行の申立てをすれば、慌てて金策をして債務を弁済することもよくあります。「本気なんだぞ!」という姿勢を示す意味でも、強制執行の手続について知っておきましょう。