執行証書を作成する

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金銭の支払いを目的とする場合に活用される

甲と取引きする乙や丙の自衛策としては、お金を貸したり、品物を卸す(売却する)ときに公正証書を作成しておいて、いざというときには、それを根拠にして裁判所に強制執行を申し立てる方法が考えられます。前述したように、公正証書を作成しておくことの最大のメリットは、債務者が債務を履行してくれないときには、裁判を経なくても強制執行によって債権の満足を得ることができるという点です。ただ、そのためには、債務者が強制執行をあらかじめ承諾していることを示す「執行認諾約款」が公正証書に記載されていなければなりません。

借金(金銭消費貸借契約)や卸売り(売買契約)など、金銭の支払いを目的とする債務について執行認諾約款が記載されている公正証書を「執行証書」といいます。執行証書は、訴訟での判決と同様に、強制執行の申立ての根拠となる「債務名義」となるのです。

このような公正証書のメリットを活かすためには、執行証書として必要な要件を欠かさないようにしなければなりません。公正証書を作成する際には、公証人にいろいろと相談することはできますが、以下で説明している事項については、十分に注意しておいて下さい。

債務を特定すること

公正証書は、当事者間の契約内容を明らかにするものですから、その記載上、債務が特定されていなければなりません。当事者間の債権債務といっても、いろいろなものが考えられます。前に挙げた例で言えば、甲と乙の間では、今回以外にもお金の貸し借りがあるかもしれません。

また、甲と丙の間では以前から製品の卸し売りが反復継続していると考えられます。それぞれの債権債務が別のものと判別できるように、債務の同一性がわかる程度に明確に記載しておくことが必要になるのです。具体的には、貸金債務については、※当事者(貸主と借主)、※貸し借りをした日付(平成 ※年※月※日)、※金額(金 ※円)が記載されていれば、債務の特定は認められるでしょう。また、売買代金については、※当事者(売主と買主)、※売買をした日付(平成 ※年※月※日)、※目的物(製品)、※売買代金(金 ※円)が記載されていれば、特定ありといえます。もし、同じ日に同一の当事者間で、同額の貸金や売買が別にあった場合には、それぞれが判別できるように、別の事項も加えて記載しておきます。

債務の特定については、公正証書上の記載だけから判断できるようにしなければなりません。いくら証拠となる借用書・念書・納品書・注文書などがあったり、立ち会った証人がいたりしても、公正証書以外のところから判断材料を補充することは認められていません。公正証書上に記載されたことだけから、債務が特定されなければ要件を満たしているとはいえないのです。

債務額が一定していること

債務者が債務を履行しない場合、有効な執行証書があれば、申立てをしてすぐに強制執行の手続きに入ることができます。申立てを受けた執行機関(執行官)は、債務者の財産から強制的に取り立ててきます。この時、執行機関は、債務名義である執行証書に記載されている債務の金額を基準にして、強制執行をすることになります。ただ、執行機関には、この金額が本当に正しいのかどうか、あいまいな記載がある場合に債務額をどうすべきかについて、判断する権限はありません。債務額について疑問がある場合に、それをはっきりとさせる権限があるのは、訴訟をする裁判所でする。執行機関は債務名義にある債務額を見て、機械的に強制執行の手続きを行っていくだけなのです。そのため、公正証書の作成段階から、債務額は一定していなければならないのです。

債務額についても債務の特定の場合と同様に、公正証書の記載だけから、金額がいくらになるのかが判断できなければなりません。公正証書に記載された以外の要素を加味してはじめて、金額が定まるのでは要件が満たされないのです。例えば、「支払い期限となっている平成※年※月※日における日経平均株価と同じ金額を支払う」といった記載では、その公正証書だけでは金額が決定できないので、債務額が一定しているとはいえないのです。

ただ、利息や遅延損害金については、具体的な金額を公正証書に記載する必要はありません。利息も付けて返済する約束がある場合でも、返済期限をはじめから決めていないこともあります。その場合には、利息がいくらになるのかは、はじめからわかるわけではありません。また、実際に返済期限に全額返済されるという保証もなく、その場合には、残金に応じた遅延損害金が発生します。利息や遅延損害金については、元本に対する率さえ一定していれば、それで債務額は一定しているといえることになります。

将来の債権について

債務の特定性が要求されますから、将来発生する債権には、原則として、執行認諾約款をつけることができません。もっとも、実現する一定の条件や到来する期限によって効力が発生する債権には、執行認諾約款をつけることが認められています。たとえば、「大学を卒業した次の月から月々2万円を支払う」とか「※試験に合格したら、金※万円を支払う」といった債務は執行証書にすることができます。

執行認諾約款の記載が必要

公正証書を作ることの最大のメリットである債務名義を取得するためには、執行認諾約款が記載されていなければなりません。せっかく、お金を貸したり、物品を売ったりしたときに、強制執行を受け入れてくれると約束したとしても、そのことを公正証書に記載しなければ、法律的には意味がなくなってしまうのです。公正証書作成の段階では「債務を履行しないときはすぐに強制執行を受けても異議のないことを認諾する」旨の記載をすることが大切です。